AI電話のデータフロー図は、製品をつなぐ構成図ではありません。一件の通話で生まれる情報について、入口から削除までを追う図です。途中で行われる加工と受け渡しも示します。箱には保存先と管理者を、矢印には送る目的と項目を書きます。

最初から全システムを網羅しようとせず、実際の一通話を入口から削除までたどってください。録音と文字起こしを別のデータとして扱い、外部サービスへ渡す場所では参照と複製を分けます。AIの学習やサービス改善へ使う場合は、通常の電話対応とは別の分岐にします。

一件の通話を入口から描く

最初に、対象とする電話業務を一つ決めます。問い合わせ直後の架電なら、フォーム送信を入口にします。代表電話の受付なら、着信と発信者番号から始めてください。複数の業務を一枚へ重ねると、誰の情報がどの目的で動くのか分からなくなります。

図の中央には、実際に起きる順番を置きます。基本の流れは「フォームまたは着信 → 電話基盤 → AIとの会話 → 録音・文字起こし → 要約 → CRMまたは担当者通知」です。

この一本だけでは足りません。フォームから電話基盤へ渡す項目と、AIが会話中に参照する顧客情報を矢印へ書きます。各箱にはサービス名ではなく役割も添えてください。「CRM」「AI電話サービス」「録音保存先」のように書くと、製品を変更した後も流れを見直せます。

NIST Privacy Frameworkのロードマップは、データと処理される状況を棚卸しすることがプライバシーリスクの把握に役立つとしています。データマップは、個人とシステムやサービスとの関わりを示す手段にもなります。自社の図でも、システム名だけでなく、誰のどの情報を扱うかまで残してください。

最後に、各箱の管理者を一人置きます。電話基盤は情報システム部、CRMは営業企画のように、設定と利用を確認できる責任者を決めます。委託先の担当者名ではなく、自社で判断する役割を置くことが重要です。

元データと生成データを分ける

通話音声から文字起こしが作られ、そこから要約や用件分類が生まれます。これらを「通話データ」と一括りにすると、必要な保存期間と確認方法を決められません。図では録音を元データとして置きます。文字起こしと要約、分類はそれぞれ別の箱へ分けてください。

同じ内容に見えても役割は異なり、録音は会話を聞き直すための記録です。文字起こしは検索や確認に使えます。要約は担当者が次の行動を決めるための短い情報です。AIが付けた分類や感情ラベルは推定結果なので、本人が話した事実と同じ欄へ置きません。

Amazon Connect Customerが扱うデータの公式説明では、通話録音はサービス内で一時的に保持された後、利用者側のAmazon S3へ配信されます。一方、問い合わせメタデータはサービス内に保存され、Contact Lensのリアルタイム処理データはAPI提供のため通話終了後最大24時間保持されます。同じ製品内でも、録音と属性では保存場所が異なる場合があります。文字起こしについても保持の仕方を別に確認してください。

図には、生成元を矢印で残します。要約から録音へさかのぼれるように、受付IDや通話IDも添えてください。要約が誤っていたときに元の会話を確認できず、どの記録を直すべきか分からない構成は避けます。

外部サービスへの矢印を追加する

次に、自社の管理範囲を越える矢印を探します。電話回線や音声認識が別会社のサービスなら、別の箱として描いてください。生成AIとCRM、通知や分析も同様です。AI電話の提供会社が内部で使うクラウドやAI基盤も、確認できた範囲で追加します。

外部へ渡す矢印には送信項目と目的を書き、「AI連携」では終わらせません。「文字起こしを要約生成のために送信」のように、何を何のために渡すかを示します。送信の時刻と保存の有無も必要です。処理中だけ渡す場合と、相手側へ履歴が残る場合を分けてください。

画面から録音を開けても、CRMへ音声ファイルを複製しているとは限りません。参照URLを保存するだけなら「参照」と書きます。要約本文をCRMへ書き込む場合は「複製」です。元の保存先で録音を削除しても、ダウンロード済みのファイルやCRMへ転記した内容は別に残ります。

個人情報保護委員会のガイドライン通則編は、個人データの取扱いを委託する場合に監督を求めています。委託先の選定と契約に加え、取扱状況の把握も対象です。業務に不要な個人データを委託先へ提供しないことも示されています。図で外部の箱を分けると、誰に何を委託しているかを契約と照合できます。

経済産業省のデータ共有・利活用に関する案内も、データ連携の目的やシステム構成などの実態を整理した上で、法的観点と規約へ落とし込む必要があると説明しています。図だけで適法性を判断してはいけません。実際の流れを契約と利用目的、安全管理の確認へつないでください。

保存先ごとに正本と保持期間を決める

同じ通話の録音が複数の場所にある場合は、どれを正本とするか決めます。AI電話の管理画面を正本にするのか、自社のストレージへ保存したファイルを正本にするのかで、権限と削除の手順が変わります。文字起こしと要約も、それぞれ一つの正本を選んでください。

各保存先には、保持の目的と期間を添えます。品質確認のための録音と、担当者が対応を続けるための要約では、必要な期間が同じとは限りません。すべてを最長の期間へ合わせるのではなく、利用目的ごとに必要性を判断します。

期間の起点も明記し、「一年保存」だけで終わらせません。通話日からなのか、案件完了日や契約終了日からなのかを決めます。削除を実行する仕組みと確認する担当者も必要です。自動削除なら失敗を検知するログを、手動なら対象を抽出する条件を図の脇へ残します。

バックアップとエクスポートを忘れやすいところです。管理画面から削除しても、復旧用のバックアップに残る場合があります。分析用の複製と担当者がダウンロードしたファイルも確認してください。通常画面に見える保存先だけでなく、持ち出し後の保存先まで追います。

削除とAI学習の分岐を最後まで描く

削除の矢印は「削除ボタン」ではなく、すべての保存先へ向けます。録音を消した後に文字起こしと要約が残るのか、監査ログには何が残るのかを分けてください。外部サービスへ複製したデータについても、削除依頼の方法と完了を確認する証拠を決めます。

個人情報保護委員会の同ガイドラインは、利用目的との関係で保有する合理的な理由がなくなった場合、個人データを遅滞なく消去するよう努めることを示しています。法令で保存期間が定められる場合は例外があります。自社の図では「サービスが保存できる期間」ではなく、業務上必要な期間と根拠を置いてください。

AIの学習やサービス改善に使う流れは電話対応から枝分かれさせ、「AIが使われているから学習される」と決めつけてはいけません。契約とプライバシー情報を読み、設定と提供会社の回答も照合します。利用する場合は対象となるデータと目的を記録してください。加工の有無と停止方法も別に残します。

通常利用を止めることと、保存済みデータを削除することも別です。契約終了や本人からの停止希望があったときは、新しい処理を止める矢印と、過去の保存先を削除する矢印を分けます。削除完了の確認者と日付まで残せば、図を実際の運用記録へつなげられます。

六つの質問で図の抜けを確かめる

完成した図は、矢印の本数では評価しません。一件の通話を選び、次の六つを左から順に答えられるか確かめます。

  1. 最初に取得する情報は何で、利用目的を誰が説明するか
  2. 録音から何が生成され、元データへどのIDで戻れるか
  3. 外部サービスへ渡す項目と目的、保存の有無は何か
  4. どの保存先が正本で、誰が閲覧とダウンロードを管理するか
  5. 保持期間の起点と削除対象、完了を確認する証拠は何か
  6. AI学習やサービス改善へ分岐する場合、通常利用と何が違うか

一つでも答えられない矢印があれば、製品資料と契約を確認し、管理画面で実際の設定を見ます。提供会社へ質問するときは「データは安全ですか」ではなく、対象となる項目と保存先を指定してください。「通話終了後、録音と文字起こしはどこに残りますか。削除操作はバックアップへいつ反映されますか」と分けて聞くと、図へ戻せる回答になります。

最初に作るのは、正常な一通話だけを追う一枚です。各箱へ管理者と正本を置き、各矢印へ目的と項目を書きます。最後に削除とAI学習の分岐を加え、六つの質問を通してください。製品を比較するときも同じ図を使えば、機能名では見えないデータ管理の違いを確認できます。